ギャンブル依存症の多くの人が もう参加しなくてよい理由を探します
パチンコとスロットが圧倒的に多いこと、薬物乱用や反社会的パーソナリティ障害の合併が少ないことが、欧米と異なる特徴で、これはわが国でパチンコ、スロットの遊技場がどこにでもあり、日常的にギャンブルを楽しめる社会であることを反映しています。普通のサラリーマン、主婦、学生にギャンブル問題は蔓延していて、平成21年の全国的な調査では、成人男子の9.6%、女性の1.6%と、欧米に比し高率のギャンブル依存症がいると推計されました。
ギャンブル依存症の最も顕著な症状は借金と嘘である。また家族関係は混乱し破綻することも珍しいことではない。手元に少額のお金があれば(筆者の治療経験では500円でも)、ギャンブルをして何倍にでもできるという妄想的確信といえるような思考のもとギャンブルをする(お金=ギャンブル)。ギャンブルをすることが習慣となっているのであ.
る(病的習慣=嗜癖)。仕事よりギャンブルを優先し、仕事での信用を失うどころか、失職することもある。中にはホームレスとなることもある。生活保護受給者がパチンコにのめり込んでいることは珍しいことではない(彼らの生活保護を停止せよという声があったが、必要なのは治療であることは論を待たない)。学生の場合は、留年あるいは退学となることもある。多額の借金のため家族が肩代わりすると直ちにギャンブルを再開し、家族の貯金がなくなるまで肩代わりは続く。肩代わりしないと、家族や親族が悪いと攻撃してくることもある。子どもが進学をあきらめざるを得ないこともある(子供の将来・人生に 影響を及ぼす)。何度も裏切られた家族は何もかも信用できなくなり、混乱する。言葉が言葉としての機能を失ってしまうのである。バーンアウトし、家族関係が破綻することも珍しくない。
治療は、精神療法・集団療法が主となる。ギャンブルをとめ、思考、感情、行動、家族 関係を含めた人間関係を健康なものすることが目的となる。仕事を優先することは、有効 ではなく、お金=ギャンブルという思考のままでは、給料が入るとまたギャンブルをするだけである。治療を優先するべきである(覚せい剤依存症者が、お金=覚せい剤という思考のもとお金があると覚せい剤を入手し使用するのと全く同じである)。説教、説得、約束などで、ギャンブルが止められることはなく、全く意味がない(アルコール依存症者の飲酒や薬物依存症者の薬物使用が、説教、説得、約束などでやまらないのと同じである)。ギャンブルを止めることを約束させ、その約束を守れず、再びギャンブルをしてし まった場合、離婚にもっていく治療機関があると聞いているが、疾病特性を理解していな い判断である。ギャンブルからはなれ、安定した生活を取り戻すのに、少なくとも3年は必要という印象がある。残りの人生をかけてギャンブルと縁のない生活を取り戻すという考えがあり、その場合は一生涯かかることとなる。いずれにせよ、薄紙をはぐようにしかよくならない。家族関係の再構築も目標の一つであるが、やはり時間は必要で、言葉が言葉としての機能を取り戻し、信頼関係を取り戻すには少なくも3年は必要である。ギャンブラーズ・アノニマス(GA)という自助グループも有効である。
法的規制も重要であるが、有効な手立てがされていないのが現実である。パチンコ・スロットは遊技とされ行政はギャンブルとは認めていない。また、統括する機関は、パチン コ・スロット一警察、競馬一農水省、競艇一国交省、競輪・オートレース一経産省、宝くじ一総務省、スポーツくじ一文科省とバラバラであり、一貫したギャンブルに対する施策 はとられていない。カジノはどうなるのであろうか。
アルコール・薬物依存症では、渇望を抑制する薬物が開発途上にありますが、ギャンブル依存症では薬物の効果は確立していません。仮に薬物で渇望が抑えられるようになっても、ギャンブルのために虚言や偽装を繰り返してきたこと、ギャンブル最優先の自己中心的思考で家族の役割を放棄してきたこと、借金を肩代わりさせてきたこと、離婚や別居に至ったことなどの問題や、その反作用的な罪悪感、自責、自殺願望などの心理的問題は薬で解決しません。心理療法・精神療法で問題に向き合う必要があります。具体的には、アルコール依存症や薬物依存症で有効な集団(精神)療法、認知行動療法、内観療法などがギャンブル依存症にも効果があります。
ギャンブル依存症とは、娯楽で始めたギャンブルが、既に自分に不利益、有害な結果を生じていて、やめたほうがよいと考えることはできても、強烈な再体験欲求(渇望)により、自己制御できずにギャンブルを反復継続する状態を言います。
まずは対応を相談するためにご家族が受診してください。ギャンブル依存症は家族とのコミュニケーション次第で問題行動は悪化も改善もします。本人との関係性が改善すれば治療に繋げる機会も増えるので今すぐご相談してください。
頻度はどうなのであろう。結論を先に示すと、我が国は世界に名だたるギャンブル大国です。2014年の厚生労働省の調査によるとギャンブル依存症の有病率は、男性8. 7%、女性1.8%、全体で4.8%(536万人)でした。アメリカが0.42%、イギリスが0.50%、香港が2.20%、マカオが1.80%。シンガポールが2.1 0%でありわが国のギャンブル依存症の有病率の高さは群を抜いている(厚労省はこの結 果をひた隠しにしている)。そして、遅まきながら、対策を立てるために、本年度になってからギャンブル依存症の合併症や治療法についての調査をやっと始めている。
2020年4月から、ギャンブル依存症の治療が保険適用となりました。ギャンブル依存症の治療費は、医療機関や依存症の程度などで金額は大きく変わるので注意してください。治療費を公開している医療機関は少ないため、直接問い合わせをして確認しましょう。ギャンブル依存症は医療機関で治療を受ければ治る可能性があります。依存症を疑われる症状がある場合は、早めに相談することをおすすめします。
回復のための大事な点を箇条書きにしてみます。
1) 依存症を診療する医療機関か、精神保健福祉センターに相談に行く
まず恐れずに、専門家のアセスメントを受けてみましょう。ギャンブル依存症だから薬を飲むとか、直ちに入院するとかいうものではありません。問題の本質は何かを、専門家の力を借りて明らかにし、十分な説明を受けてください。
2) 全てを正直に明らかにする
この時点で全てをオープンにすること、特に債務は些細な額も正直に明らかにすることが再生の鍵です。借金の一切合切を明らかにし、司法書士や弁護士を活用して対策を進めると楽になるはずです。
3) 半信半疑でよいから回復プログラム(治療プログラムやGAミーティング)に参加してみる
問題なのは「ギャンブル依存症」なのですが、自分がそうとは中々受け容れられないものです。ギャンブルが病気?などと思うでしょう。半信半疑で良いから回復プログラムに参加して何が得られるのかを体験してください。特に、他の経験者や回復者が参加する集団のプログラムがお薦めです。
4) 1年ほどはギャンブルをやらないことにこだわり、プログラム参加をとにかく続ける
実際に参加すると精神的、身体的な調子も良くなり、「自分は軽い」「もう自分の力で治せる」などと考えて、プログラムや自助グループに行きたくなくなります。ギャンブル依存症の多くの人が、もう参加しなくてよい理由を探します。そこで早期にプログラムから離れた人は、問題が再燃しやすくなります。まずは、1年位を目標に参加を続けましょう。
5) 自助グループを活用する
3年後くらいに「治った」と考え、ギャンブルをしてしまうこと(「スリップ」と呼ぶ)があります。放置すると、すぐに再燃します。これを防ぐには、自助グループに参加し、自分のこころのうちを吐き出す習慣をもち、仲間と問題を分かち合うのが一番です。GAの仲間の体験が役に立ち、不要なスリップも避けることができます。
終わりに)
依存症はいつ爆発するか分からない休火山にも似ています。自然界の火山の爆発を防ぐのは困難ですが、自助グループに無理なく長期に参加することで“依存症火山”の爆発を予防し続けている人は世界中にたくさんいます。
この自助活動の例会参加を長期に続けると、安定し、回復につながります。実は、ギャンブル依存症を治療する医療機関は数少ないので、自助グループGAの活用が重要です。ギャンブルから離れ、生き方を変えながら健康に生きていくには、同じ問題を持つ仲間と定期的にグループミーティングを持ち、自分を内省する機会を長期に持ち続けることが最も大切なのです。
ギャンブルは、何かの結果を予想して金銭を賭ける行為で、国や文化、世代により好まれる種目は多様です。わが国のギャンブル依存症には、パチンコ、スロットのゲームマシンが極めて多く、続いて競馬、マージャンで、ポーカーなどのカードゲームやバカラなどは少数です。
ギャンブル依存症になると、日常生活をおくるなかで、ギャンブルのことがよく頭に浮かんできたり、ギャンブルをしていないと、“ギャンブルをしたい”という気持ちがどんどん大きくなって、その気持ちが抑えられなくなったりします。その結果として、本人に加え、家族等の身の周りの方の生活にも悪影響を及ぼすようになります。
ギャンブル依存症は約100人に5人の割合で存在し、決して珍しい病気ではありません。適切な支援や治療を受けることで、失ったものを取り戻し、回復することができます。
ギャンブル依存症は病気と認められにくく、本人の意志や性格の問題で自己責任と思われがちです。しかし、実は、ギャンブルにはまる「依存症」は、ギャンブルしか楽しめなくなったり、目先の快楽に飛びつきやすくなったりする、自分の意志では止められない脳の仕組みが出来上がっているのです。
公式病名は、世界保健機関(WHO)では「病的賭博」、米国での最新の診断基準の病名は「ギャンブル障害」です。また、アルコール・薬物依存症との同質性が分かり易いので「ギャンブル依存症」の病名も社会でよく使われます。
当院はアルコール依存症、ギャンブル依存症、薬物依存症、性嗜好障害・強迫的性行動症(性依存)、買い物依存症、ネット依存、窃盗癖(クレプトマニア)、ストーカー、DVといった依存症を扱う専門医療機関です。外来通院での治療ですが、入院が必要な場合には専門病院と充分な連携があります。依存症を専門に扱う医療機関は数少ないのが現状ですが、当院では治療レベルを上げることで、患者さまの病態にあわせた高度で良質な治療パッケージを提供するよう心掛けています。
また、他の家族の対応が参考になりますので、ギャンブル依存症の家族の集いである「ギャマノン」に参加してみましょう。この家族自身の自助グループであるギャマノンの例会場は全国に130ほどあり、インターネットで検索できます。